山の子

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2010年 05月 01日

その21 <獣たちと人と 3>

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                                       つづく






アニメ映画「もののけ姫」の冒頭に出て来るアシタカの村は、シシ垣で囲われていました。
シシ垣の脇には、高い櫓(やぐら)があり、
シシ垣を超えて侵入して来る野生動物がいないか、見張りが立って、警戒をしていました。
明治に入るまで、この国の山間部の集落では、普通にあった光景だそうです。
私の住む香川県にも、シシ垣が残っています。
「二十四の瞳」で有名な小豆島は、かつて総延長120kmにもなるシシ垣で、島全体が囲われており、
その一部が、現存しています。
江戸時代に作られたものだそうで、高い所では高さ1.6m、幅が60cmにもなる土の壁が、
200mにわたって残っているのだとか。

そんなシシ垣も、明治に入って、急速に無用の物となっていきました。
ニホンオオカミの、最後の生息確認が、1905年。明治の38年。
ニホンカモシカが、国の天然記念物に指定されたのが1934年。昭和9年。
一般市民が猟銃を自由に使えるようになり、
いかにあっと言う間に野生動物が数を減らしていったのかがわかります。
もちろん、
ニホンオオカミには、外国から入って来たジステンパーの流行も致命傷になった・・・など、
他の要因もからんでの頭数減少でしょうが、
猟銃の普及がなければ、それでも細々と生きながらえていたかもしれない。
彼らだけではなく、
毛皮や肉が売れることもあり、鹿、イノシシなども、どんどん数を減らしていったのが、
明治から昭和の高度経済成長期にかけての、日本の姿だったようです。
約100年、
人間の優位が続いたことになりますね。

高度経済成長の時期に入って、状況が変わったのは、漫画に描いてきたとおりです。
今や、獣は優勢を取り戻し、
生活を守るため、シシ垣を復活させ、集落を囲む地域も出てきています。
現代のシシ垣ですから、土や石ではなく、丈夫な金網だったり、鉄の板だったりしますが。

しかし、
そういったシシ垣に囲まれた集落を「動物園の檻の中」に見立て、
「今や、人間が檻の中に暮らし、動物がその周りをのし歩いている」
というふうに、まるでみじめな状況のように表現する新聞やTV番組があるのは、とても気になるところです。
みじめもなにも、
ほんの150年前までは、
そうやって野生動物から暮らしを守りながら、野生動物を恐れて生きてきたのが人間だったというのに。
たった150年の間に、
<動物 = 動物園の檻の中にいるもの>
<人間 = 動物よりえらい>
という考えが、一般常識になってしまったんでしょうか。
だとしたら、ゴウマンもいいところ!不勉強もいいところだと思います。マスコミは。



不勉強といえば、半年くらい前だったか、
NHKの教育TVの番組で、とんでもないシーンが流れていたことがあります。
水彩画を描くとか、写真を上手に撮るとか、そういう趣味講座の番組だったと思うのですが
                                        (あやふやですみません)
講師だか生徒だかの中年男性が、番組の中で、神戸は六甲山のロックガーデンへ行った。
すると、男性の前に1頭のイノシシが現れたのです。
六甲山中は、もう何十年も前から、住宅地や観光施設の駐車場にイノシシが出没し、
ゴミを荒らすなど問題になっている地域で、
最近では、観光客がイノシシに食べ物をやることもあるらしく
駐車場には「イノシシに餌付けをしないでください」という看板が立つ所も、あるのだとか。
そういう場所なので、イノシシの登場には驚かなかったのですが、
驚いたのは、そのイノシシを前にした中年男性の行為です。
そのおっさん、
なんと、すっとしゃがんで、前に手を出し、
まるで猫でも呼ぶように、「ちょっちょっちょっちょっ」とイノシシに呼びかけた!


「なにやってんやーーー!!!
野生動物を人間に慣らしてどうするねん!ペット扱いしてどうするねん!」


私がTVに向かって叫んだのは、言うまでもないでしょう。
ショックだったのは、その男性の行動もたいがいにショックでしたが、
NHK教育TVが、その行為を「何の問題も無い」というふうに、平気でTVで流したこと。
つまり、この番組のディレクターも、野生動物に対するこういう行動に問題を感じない・・・ばかりか
こういう行動が「動物を愛する」だとか「動物を可愛がる」ってことだと思い込んでいる
ということなんでしょう。



冗談じゃありません!






野生動物にとって、人間の食べ物というのは、衝撃的に美味しいものらしいです。
・・・そりゃそうですよね。
普段、生のタケノコとか、生のドングリとか、草の新芽とか食べている生き物が
砂糖と油脂と、化学調味料タッッップリの人間の食べ物を口にしたら、メチャクチャ美味しい!!!と驚くはずです。
そして、一度それを口にすると、もう忘れられず、
それをくれた「人間」に、また寄って行くとか、
その食べ物の匂いにつられて民家に近づくとか、ゴミ箱をあさるとか、
そんな行為を繰り返すようになる・・・。
例えば、山の中で、無神経な人が、ポイッと弁当の残りを捨てて行く。
すると、それを拾って食べた熊が、人間の食べ物の匂いを覚えてしまい、民家のゴミ箱や台所を目指す
ということもあるのだとか・・・。
六甲山の駐車場に出没するイノシシも、一度もらったお菓子とか弁当の残りだとかが忘れられず、
すっかり餌付けされてしまっているのでしょう。

でも、

そうやって人間の生活場所に現れるようになった野生動物は、
ゴミを散らかすとか、人間にケガをさせるとか、農作物を傷めるとか、
そのうち何かトラブルを起こすもの。
そうすると、
駆除という形で殺されるのです。
餌付けした人間は罰せられずに、動物が殺される。

それを考えると、野生動物に安易に食べ物をやったり、人間に慣れさせたりするのは、
相手を愛するどころか命を縮めているだけ
だと思えるのですが。
加えて、人間の食べ物は、カロリーたっぷり、塩分たっぷり、添加物たっぷり。
そんなもの、野生の生き物に与えて、健康を害さないのでしょうか・・・・・・・・???



というようなことから、私は前述のNHK教育TVに出てきた男に
「このどアホ~~~~~~~~!!!」
と叫んでしまったわけですが、
この男性、食べ物は所持していませんでした。
なので、イノシシも、男性の方を見てじっとしているだけで、寄っては来ませんでしたが・・・、
手に食べ物があったら
間違いなく駆け寄ってきて、お菓子だのサンドイッチだのをもらって食べていたことでしょう。
・・・・・・・・そんなシーンが全国に流れなくて良かった・・・・・・・・
というのが、せめてもの救いです。



たった150年の間に、人間と野生動物との関係は
<人間優位>
<野生動物は可愛いから食べ物を与えてやる>
というふうに、相手をなめきったものになってしまったようです。

けれども、漫画にも描いてきたとおり、<人間優位>は、もはや都会だけの話。
野生動物が勢力を増している山間部で、野生動物を人に慣れさせる行為は、
野生動物のためにも、人間のためにもなりません。

遠くから、その存在を認識し、達者で暮らせよ、と願う。

野生動物に対しては、そのように考えを変えていく時期に、来ているのではないでしょうか。
(ふれあいたければペットを飼うとか、動物園のふれあいコーナーへ行って可愛がればいいのです)






正直言って、このような漫画を描くのはつらかったです。
こんな問題、暗いし、やっかいだし。読んでる人だって、イヤでしょうし。

けれども、
NHKが、
全国放送で、あんなシーンを平気で放送してしまうのを見てしまった以上、だまっているわけにはいきません。
あの男性が、「地方の現状を知らない」ために、ああいう行動をしたのだとすれば、
知らせなければ、
伝えなければ、
と思います。
また、里山の暮らしを描いている以上、
農業や林業への鳥獣害について、描かないですますわけにはいきませんし。

実を言えば私も、
まだ里山に通い始めて間もない頃、
私達の里山に鹿が現れた際には、珍しさのあまり、写真を撮ったり、じっと眺めたりしていました。
でも、
今度会ったら、もうそんなことはしません。
民家の周りに現れてはいけない!
もっと山奥で暮らせ!
と、石を投げておどします。棒を振り回して追いかける鬼ババになるつもりです。
それが、鹿のためなのだから。
自然との共存というのは、けっして美しいものではなく、苦しく厳しいものだと思います。



救いの無いこの漫画に、長々とつきあい、最後まで読んでくださった皆さま、
そしてコメントを書き込んでくださった皆さまには、深く感謝をいたします。
本当に、ありがとうございました。






      このブログ上の漫画、文章の著作権は、すべて高橋はるのにあります。
      無断での転載、転用は、ご遠慮願います。

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by t-haruno-2 | 2010-05-01 17:03


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